オーバーハウゼンで見逃したもの

ドイツのルール地方には、広大な原生林と沼地があった。その沼地で、鉄をふくんだ地下水が、空気中の酸素にふれ、沼鉄鉱(褐鉄鉱)と呼ばれる鉄鉱石ができた。品質は低くても、まぎれもない鉄鉱石である。

18世紀に入って、森林から切り出した木炭を利用し、鉄の精錬がおこなわれた。こうしてルール工業地帯が誕生して、まもなく燃料は木炭から石炭(コークス)へと変わり、製鉄業は飛躍的に発展していく。
(中略)
1912(大正元)年9月13日、オーバーハウゼン市に到着した田中熊吉は、GHHの溶鉱炉が目の前に見える下宿に入った。


(佐木隆三『高炉の神様 宿老・田中熊吉伝』(文春文庫)より。※漢数字をアラビア数字に変更しています)

この本を読んでから絶対にオーバーハウゼンに行こうと思っていました。今回やっと行くことができたのですが、残念ながらオーバーハウゼンでは空振りが多かったのです。

Twitterより:

オーバーハウゼン駅前には、産業博物館もあり、通常土日も開いているはずなのですが、行った日にはなぜか閉まっていて泣けました。サイト見る限り面白そうだったのですが。外観の写真だけ撮って退散。

またリベンジ再訪したいと思います、オーバーハウゼン。

ドイツ製鉄所めぐり2016

Völklinger Hütte
昔からドイツの製鉄所に興味ありありだったのですが、「ヨーロッパなんて年取ってからでも十分行けるしなあ」とスルーしておりました。がしかし、油断していたらすでに年を十分取っているではありませんか!おっす!おら年寄!足腰が本格的に弱っちゃう前には行っておかないとなあ、というわけで2016年の正月休みにドイツに行ってみることにしました。

ちなみにロマンチックな街道とか狂王の城とか(いやヴィスコンティ映画は好きですが)中世の街並みとかにはまったく興味がないのでひたすら製鉄所だけを見る旅です。製鉄所への行きやすさからドイツでの拠点はフランクフルトに。節約して飛行機はカタール航空の安い便を10月くらいにゲット(トランジットの時間かかりすぎで後悔することになるのですが…)。

目的地1:フェルクリンゲン製鉄所(Volklinger Hutte [Wikipedia] )

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世界遺産になっている有名な製鉄所の遺構です。ザールラント州という、ドイツの端っこにあり、フランスやルクセンブルクと国境を接しています。ドイツ軍の鉄兜の80%くらいがここで作られていたとのこと。

フランクフルトからはICEでマンハイムまで行き、ローカル線に乗り換えてフェルクリンゲン駅へ。2.5時間くらい。駅からすでに製鉄所の姿が見えていますが、徒歩3分程度で着きます。入場料は大人15ユーロ、子供は無料(詳しい料金表はこちら)。

フェルクリンゲン製鉄所は、奇跡的に戦火を逃れて完全な形で残されているため、中を見て歩くだけでものすごく興奮したのですが、紹介ビデオ(残念ながらドイツ語とフランス語バージョンしかないのですが)や職工さんたちの写真、お子さん向けのシミュレーターなどもあり、とても楽しめました。

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目的地2:ランドシャフトパーク@デュイスブルク(Landschaftspark Duisburg-Nord [公式サイト] )
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こちらは製鉄所の廃墟がそのまま公園になっているところです。フランクフルトからは、ICEでデュッセルドルフまで行ってローカル線に乗り換えてデュイスブルクまで。2時間弱くらい。デュイスブルクからは903番のStadtbahnでLandschaftspark Nord下車。

私は先にオーバーハウゼンのNeue Mitteにあるガソメーターを見に行きたかったので、DB職員さんに、オーバーハウゼン駅からバスでの行き方を聞きました(バス停からすごく歩いたのでお勧めできませんが。DBの方は英語通じるし、乗換案内みたいなものプリントアウトして渡してくれるので、困ったときには尋ねるのが良いかと)。

こちらはフェルクリンゲンと違ってas is で公開されているので入場無料。フェルクリンゲンも高炉の上に登れますが(ヘルメット着用必須)、こっちはより上部まで(自己責任だけど)行けます。風がびゅんびゅんかつ階段が透けてるタイプで怖かった…。暖冬で雪がなくて良かったです。廃墟らしく、設備のそこここから草が生え出していてめっちゃ萌えました。

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参考:廃墟を公園にした『ランドシャフトパーク』が魅力的すぎて興奮する人々「写真だけで血管切れそう」 – Togetterまとめ

Cold Steel: The Multi-billion-dollar Battle for a Global Industry

ごぶさたしています。インドでもご本は読んでいるのですが、英語ということで、日本語の本のようには早く読めません。なのでゆっくりゆっくり読んでいますよ。そんな中で、おもしろすぎてページをめくる手が止まらなくなった本(ノン・フィクション)をご紹介。 

Tim Bouquet/ Byron Ousey著の『 Cold Steel: The Multi-billion-dollar Battle for a Global Industry』(2008)。 

世界最大の鉄鋼メーカーであるミッタル・スチールによるアルセロール(世界第二位)の敵対的買収の話。著者はジャーナリストと実際にこの買収騒動の中でルクセンブルク政府のコンサルをしていた企業の方の二人組です。 

ミッタル・スチールはオランダに本社を置き、経営は英国から行っている企業ですが、設立者/CEOはラクシュミー・ミッタルというインド人(彼の子供たちも経営にかかわっているファミリー企業)。一方、アルセロールは、ルクセンブルク(=鉄鋼が長らく経済を支えてきたために鉄鋼業に関係する人がそこらじゅうにうじゃうじゃいる国)に本社を持ち、経営陣はフランスにいるという企業です。 なので、買収といっても単なる企業間だけの話では済まなくて、銀行や弁護士、PR会社をはじめ、政府(ルクセンブルク・フランス・イギリス・インドなど)や個人投資家(イタリア・フランスなど)、敵対的買収から企業を救うホワイトナイト(ロシア・中国・韓国・ブラジルの製鉄会社など。日本の新日鉄も一時期候補に上がっていたそうです)など、登場する人々も多彩かつグローバルで、それぞれの思惑が絡み合い、状況が二転三転します。下手なサスペンス小説よりスリリングです。 

興味深かったのは、アルセロールのミッタルへの嫌悪感は単なる「敵対的」買収という点からだけ生じていたのではなく(ちなみに「事前の根回しなしにそんなことをするなんて、うちらはアングロ・サクソンと違うんやから!」と当初、ヨーロッパでミッタルはものすごく嫌われます<-日本での場合と同じですね)、人種差別的視点があったということ(当時のアルセロールCEOのガイ・ドイルの諸発言やアルセロール経営陣が「インド人に買収されるくらいなら…」と最後にはむりやり無茶な選択肢をひねり出すところなど)。また、ミッタル・スティールのファミリー経営的な部分(=経営者一族の議決権が一般株主よりも大きかったところなど)も買収への過程で必要に迫られて変わっていったところもまたおもしろかったのでした。 

ハードカバーで約350ページとやや大部な本ですが、英語もそれほど難しくないので読みやすいと思います。