Keep off the Grass

Chetan Bhagat『Five Point Someone』の二番煎じだけれど、舞台はIITではなくIIMバンガロール(Indian Institute of Management Bangalore)で、主人公はアメリカで育った印僑二世という設定のKaran Bajaj『Keep off the Grass』を読みました。こちらも2008年のベストセラー。

主人公のSamratはNY・マンハッタンの投資銀行で働く高給取りの印僑二世(見かけはインド人だけど話す英語はアメリカン。イェール大卒)なのですが、突然自分探しの熱にとりつかれ、誰もがうらやむ仕事を投げ捨て、自分のルーツであるインドに戻り、IIMバンガロールでMBAを取ることにします。しかし、アメリカ育ちの彼にとってインドでの生活は厳しく、また、なめてかかっていたIIMの詰め込み授業にもついていけず、結局は二人の親友と一緒にマリファナやパーティーなどに明け暮れる生活を送ることに。飲酒運転が見つかり、警察につかまりそうになったり(ここで親友の正体が明らかに)、ガリ勉野郎と対立したり、ダラムサラにメディテーションをしに行ってヒッピーの女の子と仲良くなったり、バラナシで夜中にAghoriの行者に出会って度肝を抜かれたり(Aghoriは儀式の一環として死んだ人の肉を食べます)、良い成績が取れず、企業からの内定も出なかった同級生が自殺したりなど、ものすごくありがちなエピソード満載の中、自分が本当にやりたいことを探すのですが、青い鳥は身近にいると言いますか、人からうらやましがられたり、スペックから判断されるような幸せではない、自分にとって充実感のある幸せを紆余曲折の末にやっとのことで見つけるのでした。

内容はともかく、章題のつけかた(前の章の最後の文の一部がそのまま章題になっています)がおもしろかったり、インド人でも中身は白人というのを「ココナッツ」と呼んだりするところなど細部が良かったです(中身が白人の東洋人のことを「バナナ」と言ったディック・リーを思い出したり。そういえば、最近お元気なんでしょうかディック・リー)。

本作にはRuskin Bondの推薦文がついているのですが、彼はなんと作中にも登場します。

著者のオフィシャルサイト:http://www.karanbajaj.com/

Almost Single

Advaita Kala『Almost Single』。インド版ブリジット・ジョーンズの日記、というひとことで紹介が終わってしまいそうなのですが。インドについては他の国との異質性ばかりがとやかく言われがちなのですけれど、アラサー独身女子の都会生活(舞台はニューデリー)という点ではあまり英国や日本と変わりないんじゃないかと思います。バリキャリ志向ではないしボスは大嫌いだけど、仕事(一流ホテルのレセプション係)自体は好きで周囲にもそれなりに評価されていて、友達(独身女子の味方として定番のゲイの友達も含む)と楽しく過ごしている主人公が、実家の母親からの「まだ結婚しないのか、近所の○○ちゃんは婚約したというのに」「いい人はいないの?」攻撃をかわしつつ、Mr.Right(運命の人)を探していろいろドジを踏んだり恥ずかしい思いをしながらもがんばるという話。サリーの下に着るペチコートを忘れた場合、ジーンズでも代用がきく(太って見えるけど)というのは初めて知りました。

著者のオフィシャルサイト:http://www.advaitakala.com/ak/

My Friend Sancho

インドの人気ブログ「India Uncut」の著者(元ジャーナリスト)であるAmit Varma(ムンバイ在住)が小説家に転じたということで話題の処女作『My Friend Sancho』を読みました。

インドでは近年、ライトかつお手ごろ価格の若者向け小説(これもライトノベルと言っていいのかな。「萌え」はないですが)がベストセラーになるということで(先日読んだChetan Bhagatの作品もこのカテゴリーに属します)こちらもベストセラー入りが期待されているようです。

主人公はムンバイのタブロイド紙(夕刊フジをイメージしてください)の事件記者。警察の誤認・誤射事件にうすうす感づいていても黙ってやりすごそうとしてしまうくらい警察とはずぶずぶの仲。

しかし、警察から父親をマフィアと間違えられて殺されてしまった娘が目の前に登場し、また、彼のボスも彼女の主張をタブロイド紙の紙面改革の一環としてとりあげることを決定してから、彼の人生は変わっていきます。

彼女と何回も会って父親の生涯について聞くうちに、最初はダサい貧乏人の娘と馬鹿にしていた彼女にだんだん気持ちが傾いていくものの、警察の主張(信憑性の高いタレ込みがあったことや状況証拠によりマフィアと判断。また担当の警察官が苦労人のいい奴だったりもします)と彼女の主張のはざまで苦悩するはめに。また、せっかく張り切って書いた記事も、紙面改革に対して広告主が難色を示したことで、オクラ入りの危機に陥ってしまうのでした。

期待大で読み始めたものの、読後感は今ひとつでした。途中から彼女の父親の話はどうでもよくなってしまい(最後まで真実は明らかになりません。聞き込みとか裏を取ったりなどの独自調査もしないの?当事者2-3人の言うことを聞くだけって本当にジャーナリストなの?)、単なる彼のひとり相撲的な恋愛小説となってしまうのと、彼女がまったく魅力的でない(=すぐ感情的になる考えなしな人にしか見えない)のが痛かったです。

ただ、AndheriのモールとかJuhu BeachとかThaneとかが出てきますのでムンバイ在住のみなさまには親しみやすいかも。

著者による自作紹介ページ:http://indiauncut.com/myfriendsancho

まだアマゾンには入荷されていないとのことです。

The Friday Night Knitting Club

インドは英語圏ということで書店には米国の本も英国の本も並びますが、入ってくるタイミングがよくつかめません。新刊ということで入ってきていたこの本は2007年の米国でのベストセラー。もしかしてもうすぐ映画化されるということで入荷されたのかも(ジュリア・ロバーツ主演。そういえばこの本の中にもジュリア・ロバーツに言及した台詞がちょっとだけ出てきていました)。

ニューヨークでシングルマザーとして毛糸店を経営するGeorgiaと彼女の12歳の娘Dakotaをとりまく人々の物語。実の母親以上にGeorgiaを支援する年上の友人Anita。パリから著名な建築家となって戻ってきたDakotaの父親であり、Geogiaの元彼であるJames。また、高校時代にGeorgiaを裏切って姿を消した親友が富豪の妻となって再び姿を現したり、嫌味な大学院生がフィールドワークと称して営業妨害的なインタビューをしに顔を出したりなどもします。

おもしろいことはおもしろいのですが、物語が実際に動きはじめるのに時間がかかりすぎるのと展開がちょっと都合が良すぎるのと(特に元親友および元彼との過去のいきさつのくだり。手紙がだめでも他の手段で連絡取れると思うんだけど…)登場人物がうすっぺらい(K.Cがどんな人なのか全然わかりません)のがひっかかって心の底からは楽しめませんでした。でもDakotaの焼くお菓子はとてもおいしそう。巻末にレシピが載っていたので作ってみようとか。

あと読んでいるとやはり編み物がしたくなります。作中に出てくるアフガン編みのブランケットがいいなあと思いました。雄鶏社が自己破産してしまう時代ということで、日本では編み物なんかもうはやらないのかもしれないのですが、自分は今後もずっとやりたいなあと。母親がレース編みをする人だった影響もあるかもしれませんが(雄鶏社の本は何冊か自宅にあってなじみ深かったので、自己破産のニュース、とても残念です)。ムンバイは暑すぎるので毛糸を持つ気持ちになれないのが難点なのですけれど。

日本語翻訳版も出版されています。

The White Tiger

2008年のBooker賞受賞作。著者はインド人のAravind Adiga(ムンバイ在住)で、この本、ムンバイでは露店からチェーン大手書店までいたるところで売られています。あまりに見かけるので却って敬遠していたのですが、読んでみたらすごくおもしろかったのでした。おすすめです。

日本語にも翻訳されるのでは、と思ったらすでにされていました。『グローバリズム出づる処の殺人者より』。すごいタイトルだ。でも全体が「バンガロールの起業家より中国の温家宝首相に当てた長い長い手紙」という設定なので、「日出づる処の天子」をもじっているのも理解できます。

主人公はバンガロール(BPOの本場。外資系企業のオフィスがたくさんあります)の成功した起業家であり、同時に指名手配を受けている殺人者でもあるのですが、もともとはブッタガヤの近くの貧しい農村の貧しい家庭で育った人間でした(注:仏教の聖地ブッダガヤがあるビハール州はインドでもっとも貧しい地方で、識字率も最低とのこと)。家族の食い扶持を稼ぐため、学校を途中でやめさせられた彼がどうやって成り上がっていったのか、そしてなぜ人を殺したのか、指名手配を受けているのになぜ起業家として成功しているのか、といったところが徐々に明らかになっていきます。

主人公の目の前には、いまだに根強く残るカースト差別、都会に出稼ぎに出る人間に全力でたかる農村の家族、腐った選挙と警察、石炭利権、米国留学してリベラルな思想を身に着けたものの、インド帰国後は旧来の体制に順応せざるをえず苦悩する人間、自分よりさらに弱いものを叩く弱者たちなど、インド社会の問題点がてんこもりになって現れるのですが、語り口が飄々としていてところどころユーモラスなのと、主人公が腐りきっておらず、一本モラールの芯が通っているせいか、どよーんと重かったり嫌な印象を残しません。

文藝春秋のサイトで日本語版の立ち読みができます

Allaboutでも『スラムドッグ$ミリオネア』の原作本と一緒に紹介されていました。

One night @ the Call Center

先週読んだ『Five Point Someone: What Not to Do at IIT』がおもしろかったので、Chetan Bhagatの小説をもう1作読んでみました。今度はコールセンターで働く青年たちのお話。

インドはITとBPO(Business Process Outsourcing)で国が成り立っていているといっても過言ではありません。BPOの代表例がコールセンター。英語圏であり、かつ人件費が安いからですね。

この小説では、米国企業の仕事を請け負っているコールセンターのハードクレーム対策チーム(深夜シフト)のある夜の出来事を描いています。

主人公のShyamは上司(常にMBA用語を振り回すが、コピー機のソート機能の使い方もわからないidiot<-Dilbertの上司にちょっと似ています)からチームリーダーへの昇進を餌に理不尽な扱いを受けているのですが、「それもこれもみんな昇進のため」「上司って大なり小なりこんなもの」とこらえ続けています。Shyamの元彼女Priyankaはそういう彼の煮え切らないところや、実の母からの「早く金持ちと結婚しろ」プレッシャーに耐えかね、お見合いで米国在住マイクロソフト勤務のインド人エンジニアと結婚してしまおうとします。主人公の親友のVroomは元新聞記者で、ジャーナリストへの夢を捨てきれないまま、学生時代からの友人の生活レベルに合わせるため(=バーやピザやコークやバイクのため)いやいやコールセンター勤めをしています。Eshaはモデル志望のセクシーな美女で、昼間にモデルのオーディションを受けるためにコールセンターで深夜勤務をしているのですが、身長が足りないという理由でモデルデビューがなかなか果たせません。既婚者のRadhikaは結婚前はTシャツ・ジーンズのアクティブな現代っ子だったのですが、結婚後は頭の古い姑にいびられ、それでも夫のため・愛のためと耐え忍んでいます。その結果、頭痛が絶えず、常に薬を飲んでいる状態です。Military Uncleは退役軍人で一人暮らしの老人ですが、以前、息子家族と同居していたときに、嫁をいびり倒して息子から縁を切られ、孫との接触も一切禁じられています。

つまり、思いのままに行かない現実を変えたいと思いつつもなかなかそれができず、もがいたり、苦しんだりしている人たちというわけです。そういう状態を一変する出来事が一夜のうちにいろいろ起こるのですが(例:リストラ危機。でも上司はクビなどという直接的な物言いは一切せず、MBA用語で「リソースの最適配分」とか言います)、その結果このチームがとった行動とは…というわけで、本当にやりたいことは死ぬまでにやらなければ悔いが残りますぜ、というお話でした。はい。読んでいて自分もやるぜーと思いました。

主人公がうじうじするタイプでありながら、暴走しがちな親友にひっぱられて無謀なことをやってしまう、という構図は『Five Point Someone: What Not to Do at IIT』と同じですね。

ちなみに英語版Microsoft Wordで「=rand(200,99)」と入力したら出てくる文言って、本作中ではバグとありましたが、それってバグじゃなくて仕様なような。

昨年Helloというタイトルでボリウッドで映画化されましたが、評判を聞く限り、映画版はいまひとつだったようです(ファンタジックな部分の匙加減が難しそう)。

Five Point Someone: What Not to Do at IIT

インドの超難関大学IIT(インド工科大学)。MITよりも入学するのが難しいと言われ(入学試験IIT-JEEでは受験者の約1%しか合格しないそうです。倍率60倍)、入学すると将来が約束されるとあって、インド中にIITをターゲットにした予備校・塾がたくさんあります。 

そのIITに見事入学したはいいものの、超詰め込みの授業やGPAと呼ばれる成績によってすべてが判断されるといったようなシステムについていけず、落ちこぼれ気味の3人組が友情を育んだり、甘酸っぱい恋をしたり、いろいろ騒動を巻き起こしたりする青春小説(What Not to Do at IITというだけあり、「あーあー馬鹿だねえ」と思うようなことをたくさんやります)。 

著者のChetan Bhagatが実際にIITの卒業生ということで描写がリアル。軽いタッチなのであっという間に読めます。屋根の上で星見上げながらウォッカ飲みつつ将来の話するのって大学生っぽくっていいなあ。インドでは4年もベストセラーリストに入り続けた人気作で、ボリウッドで映画化され、今年公開されるそうです(タイトルは「3 Idiots」…三バカトリオですか)。 

著者のオフィシャルサイト:http://www.chetanbhagat.com/

Cold Steel: The Multi-billion-dollar Battle for a Global Industry

ごぶさたしています。インドでもご本は読んでいるのですが、英語ということで、日本語の本のようには早く読めません。なのでゆっくりゆっくり読んでいますよ。そんな中で、おもしろすぎてページをめくる手が止まらなくなった本(ノン・フィクション)をご紹介。 

Tim Bouquet/ Byron Ousey著の『 Cold Steel: The Multi-billion-dollar Battle for a Global Industry』(2008)。 

世界最大の鉄鋼メーカーであるミッタル・スチールによるアルセロール(世界第二位)の敵対的買収の話。著者はジャーナリストと実際にこの買収騒動の中でルクセンブルク政府のコンサルをしていた企業の方の二人組です。 

ミッタル・スチールはオランダに本社を置き、経営は英国から行っている企業ですが、設立者/CEOはラクシュミー・ミッタルというインド人(彼の子供たちも経営にかかわっているファミリー企業)。一方、アルセロールは、ルクセンブルク(=鉄鋼が長らく経済を支えてきたために鉄鋼業に関係する人がそこらじゅうにうじゃうじゃいる国)に本社を持ち、経営陣はフランスにいるという企業です。 なので、買収といっても単なる企業間だけの話では済まなくて、銀行や弁護士、PR会社をはじめ、政府(ルクセンブルク・フランス・イギリス・インドなど)や個人投資家(イタリア・フランスなど)、敵対的買収から企業を救うホワイトナイト(ロシア・中国・韓国・ブラジルの製鉄会社など。日本の新日鉄も一時期候補に上がっていたそうです)など、登場する人々も多彩かつグローバルで、それぞれの思惑が絡み合い、状況が二転三転します。下手なサスペンス小説よりスリリングです。 

興味深かったのは、アルセロールのミッタルへの嫌悪感は単なる「敵対的」買収という点からだけ生じていたのではなく(ちなみに「事前の根回しなしにそんなことをするなんて、うちらはアングロ・サクソンと違うんやから!」と当初、ヨーロッパでミッタルはものすごく嫌われます<-日本での場合と同じですね)、人種差別的視点があったということ(当時のアルセロールCEOのガイ・ドイルの諸発言やアルセロール経営陣が「インド人に買収されるくらいなら…」と最後にはむりやり無茶な選択肢をひねり出すところなど)。また、ミッタル・スティールのファミリー経営的な部分(=経営者一族の議決権が一般株主よりも大きかったところなど)も買収への過程で必要に迫られて変わっていったところもまたおもしろかったのでした。 

ハードカバーで約350ページとやや大部な本ですが、英語もそれほど難しくないので読みやすいと思います。