2 States – The story of my marriage

出す本出す本すべてベストセラー入りで、インドでは作家というよりむしろロックスターに近い扱いをされているらしいChetan Bhagat(投資銀行を退職して作家専業になったそうです)の新刊が書店に並んでいたのでさっそく読みました。作者の経験にもとづいたフィクションであり、以前の作品Five Point Someoneの後日談でもある本です。IIT卒業後、ビジネススクールIIMAに入学した主人公がそこで知り合った同級生と恋に落ち、彼女と結婚しようとするのですが、そこで出身地や所属するコミュニティの違いにより数々の誤解や障害が起きる、というお話です。

[裏表紙のあらすじより]
Love marriage around the world are simple:
Boy loves girl. Girl loves boy. They get married.

In India, there are a few more steps:
Boy loves girl. Girl loves boy.
Girl’s family has to love boy. Boy’s family has to love girl.
Girl’s family has to love boy’s family. Boy’s family has to love girl’s family.
Girl and boy still love each other. They get married.

インドでは地方ごとに言葉も違えば文化や習慣も違います。そのため、インドというひとつの国に住む同じ国民としての意識よりも、州・地方(例:パンジャビやタミール・ナドゥなど)に属しているという意識の方が強いため、こういう問題が起こりえます。実際、親が同じコミュニティ内で釣り合いを考えて相手を決めるお見合い結婚が主流で、恋愛結婚は少ないのだそうです。

この人の本、何がいいって重いテーマや人間の嫌らしいところを扱いつつ、3行に1回ギャグを入れて(ベタなギャグもありますが)、重苦しくしすぎないところかも。あとちゃんと若い人が行動を起こして問題を解決するところ。とても読みやすいです。若者層に支持されるのもわかります。

【参考リンク】
以前の書評:
One night @ the Call Center
Five Point Someone: What Not to Do at IIT

Life of Pi

Yann Martel"Life of Pi: A Novel“を読みました。翻訳版のタイトルは『パイの物語』。アン・リー監督によって来年(?)映画化されるらしいです(ソース1/ソース2)。

インド・ポンディシェリ(フランス領だったのでインドの他の都市とは雰囲気が違う街)の動物園経営者の息子であるPiが、家族とともにカナダに移民すべく太平洋を横断する貨物船に乗り込むのですが、この船が沈没してしまい、救命艇で漂流するはめになります。ところが一緒に救命艇に乗り込んだのは人間ではなく、シマウマやハイエナ、ベンガルトラだったから大変。なんでこういう動物たちがいたのかというと、Piの父親が動物園の動物も貨物船に乗せていたからなのですが(海外の動物園に売り飛ばそうとしていた)。そして動物たちと一緒の長い漂流の日々が始まります。

漂流が始まるまでの前半部分がちょっとつらかったのですが(読み返すと伏線がわかるのですが)、漂流が始まってからがとても手に汗にぎります。巻をおくこと能わず、でした。私は漂流の極限状態とか動物との交流などという話にはまったく食指が動かされないのですが(でもミーアキャットにもふもふされながら眠りたいぞ→そういうシーンあります)、それでもぐいぐい読まされてしまいました。そしてそれだけではないのがこの小説のすごいところ。ラスト。ああ素晴らしい。素晴らしいけど映画としておもしろく撮れるのかこれ。ユージュアル・サスペクツみたいにするのでしょうか。

2002年ブッカー賞受賞作。この本に限らず、どんな名作でもペーパーバックだと600円弱で読めるので英語圏はいいなあと思いました。もっとがしがしいい作品を読んでいくぞオラー!という気持ちになっています。

ヒトは食べられて進化した

日本に一時帰国した際に購入した、 ドナ・ハート / ロバート W.サスマン(著)、伊藤伸子 (訳)『ヒトは食べられて進化した』(化学同人) 読了。 

初期ヒト科は一般に考えられているような狩猟する側(Man the Hunter)ではなく、どちらかといえば肉食動物に狩られる側(Man the Hunted)だった、捕食(=他の動物から食べられること)の影響により人類は進化した、ということを化石や現存の霊長類の調査という2つの方向より明らかにしていくといった内容。人類、いろんな動物に食べられてきています。ライオン・トラ・クマ、あるいは絶滅した大型ネコ科動物の剣歯ネコからハイエナ・ジャッカル・ヘビ・ワニ・カンムリクマタカやオオトカゲにいたるまで。陸地だけではなく、水辺や空からの攻撃もあり、油断も隙もあったもんじゃありません。 

他の種に関してはすでに捕食の影響があるのは当然とされているし、よく調べると人類が食べられていたという証拠が多く残っているのに、人類の捕食についてなぜこれまで真剣に考えてこられなかったのか?私たちのものの見方は固定観念やキリスト教的「原罪」概念や19世紀の「文化的残存」概念(必須機能としての本来の役割を果たさなくなったにもかかわらず、今でも残り続けるような概念。例:現代人がスポーツ好きなのは遠い先祖が好んで狩りをしてきた記憶にもとづく、など)に縛られているからなのでした。 

人間をおいしく食べる動物(インドには今でもトラやらヘビなどが結構いるので危険です。国立公園のそばには近寄らないようにしよう…)について読んでいるだけでもぞっとしますが、証拠と証拠の隙間を埋めるモデルを考える際に、その思考がどれだけ時代精神なり偏見なりドグマなりにゆがめられるのかというところを想像してぞっとしました。一般向けの本ということで語り口が柔らかく(柔らかすぎるくらい)読みやすいです。 

Hotel

一定年齢以上の方は、映画にもなったし、翻訳本も昔から新潮文庫に入っているので「何を今さら」という感じを受けるのではないかと思われるArthur Haileyの"Hotel“(1965年の作品)ですが、インド版ペーパーバックを古書店で見かけたので軽い気持ちで買ってみました。いや、同時並行で"The Black Swan”(=『ブラック・スワン』)を読んでいて、おもしろいけどちょっと疲れるなあと思って息抜きに"Hotel"を読み始めたらおもしろくてとまらなくなったというだけなのですが。

ニューオーリンズの老舗の一流ホテルが舞台の、主要登場人物だけで十数人という群像劇。経営が傾いているこのホテルが買収されようとする中、さまざまなトラブルや恋愛沙汰などが起こります。おいこら主人公、19歳の女の子に迫られて喜んでるんじゃねえ!そしてホテル泥棒さん(小心者)に感情移入してしまったりとか。あと、大事故への予感が随所に挿入されるのが、ベタですがとてもスリリングでぞくぞくしたり。

アマゾンのレビューにあった「語彙が豊富すぎて読みづらい」という件、自分は他のところは大丈夫でしたが(前後の状況で十分推測可能)、事故の場面だけがつらかったです。短文(S+V)でたたみかけるように書いてあるのですが、その動詞が難しくて。語彙もっと身につけます。

Freakonomics (2006 edition)

Steven D. Levitt, Stephen J. Dubner"Freakonomics" (邦題『ヤバい経済学 ─悪ガキ教授が世の裏側を探検する』)の2006年改訂版のペーパーバック(“Freakonomics: A Rogue Economist Explores the Hidden Side of Everything (P.S.)”)が近所の書店に入荷されていたので購入。ヤバい経済学は自分は未読だったのでインドで読めてよかったです。ブログ記事やN.Y.Timesの記事の抜粋などが巻末にボーナストラックとしてついているところが改訂部分だそうです。 

この本、もともとのSteven D. Levittの研究内容(データにより常識をくつがえすところ、意外な関係性を見つけ出すのに回帰分析が大活躍)が興味深いだけではなく、ライティング担当Stephen J. Dubnerの文がすごくおもしろくて、何度も笑いました。 

ちなみに2冊目の"SuperFreakonomics"も今年10月に発売されるそうです(ソース:筆者ブログ)。読みます! 

文中に出ていた、社会学者Sudhir Venkateshのシカゴ麻薬売人対象のフィールドワークの話、もっと読みたいと思ったらそっちも今年、翻訳が出ているんですね(『ヤバい社会学』<-こっちも違う意味でヤバいんですね)。 

Branding India-An Incredible Story

今週は小説ではなく、ノンフィクションを読みました。Amitabh Kant "Branding India-An Incredible Story"(Harper Collins Publishers India)。筆者のAmitabh Kantはインド政府観光局の方。インド・ケララ州のブランディングを成功させた腕を見込まれてインド政府観光局に移ったという経歴の持ち主です。

2002年、観光地として他のアジアの国に遅れをとっていたインドが、Increadible Indiaキャンペーンを実施することで、2002年から2008年にかけて観光客数を約2倍、観光収入も2倍以上にまで持っていった方法について紹介しています。

成功要因としては、以下のようなところが挙げられていました。

・ターゲットのセグメント化(富裕層や海外旅行者が多い/伸びる国をメインターゲットにする)
・他アジア諸国との差別化(打ち出す特徴を明確にする。それまでのばらばらなブランドメッセージをやめ、すべての媒体・ターゲット国でIncredible Indiaという統一メッセージを使用)
・ADとPRのバランスを取った
・イギリスのTV番組Big Brotherの出演者がインドに対しネガティブな発言を行ったときにすばやく公開返信を行い、評判となった結果、口コミで観光地としてのインドへの注目度をアップさせた
・広告宣伝だけではなく、高速道路や観光地・空港・ホテル・などの施設の整備・拡充および観光業に携わる人々への意識改革教育を行った
・コンテンツ重視・更新が頻繁なWebサイトを作成した(今もあります。CMSベースですね。http://www.incredibleindia.org/←個人的にはもうちょっと改善できるのではないかとも思いますが…)

もちろん、よかった面ばかりではなく今後の課題面についてもしっかり分析されています(例:メディカルツーリズムを打ち出しているが、マラリアを媒介する蚊が多くいるなど、衛生面で問題も多いこと)。

カラーページが多く、キャンペーンに実際に使われたパンフレットやポスター、Webサイトなどが紹介されており、見ているだけで楽しい本でした。その一部はこちらで見られます。

あと日本人として気になったのは、世界観光機関(UNWTO)の予測データ"World’s top out bound countries:2020"で、2020年には日本の海外旅行者数はドイツに次いで世界第2位、シェア8.8%にまで増加するだろうと予想されているところでした。昨年(2008年)は2年連続前年割れ(ソース)の状況だったのに本当にそうなるんでしょうか。

Keep off the Grass

Chetan Bhagat『Five Point Someone』の二番煎じだけれど、舞台はIITではなくIIMバンガロール(Indian Institute of Management Bangalore)で、主人公はアメリカで育った印僑二世という設定のKaran Bajaj『Keep off the Grass』を読みました。こちらも2008年のベストセラー。

主人公のSamratはNY・マンハッタンの投資銀行で働く高給取りの印僑二世(見かけはインド人だけど話す英語はアメリカン。イェール大卒)なのですが、突然自分探しの熱にとりつかれ、誰もがうらやむ仕事を投げ捨て、自分のルーツであるインドに戻り、IIMバンガロールでMBAを取ることにします。しかし、アメリカ育ちの彼にとってインドでの生活は厳しく、また、なめてかかっていたIIMの詰め込み授業にもついていけず、結局は二人の親友と一緒にマリファナやパーティーなどに明け暮れる生活を送ることに。飲酒運転が見つかり、警察につかまりそうになったり(ここで親友の正体が明らかに)、ガリ勉野郎と対立したり、ダラムサラにメディテーションをしに行ってヒッピーの女の子と仲良くなったり、バラナシで夜中にAghoriの行者に出会って度肝を抜かれたり(Aghoriは儀式の一環として死んだ人の肉を食べます)、良い成績が取れず、企業からの内定も出なかった同級生が自殺したりなど、ものすごくありがちなエピソード満載の中、自分が本当にやりたいことを探すのですが、青い鳥は身近にいると言いますか、人からうらやましがられたり、スペックから判断されるような幸せではない、自分にとって充実感のある幸せを紆余曲折の末にやっとのことで見つけるのでした。

内容はともかく、章題のつけかた(前の章の最後の文の一部がそのまま章題になっています)がおもしろかったり、インド人でも中身は白人というのを「ココナッツ」と呼んだりするところなど細部が良かったです(中身が白人の東洋人のことを「バナナ」と言ったディック・リーを思い出したり。そういえば、最近お元気なんでしょうかディック・リー)。

本作にはRuskin Bondの推薦文がついているのですが、彼はなんと作中にも登場します。

著者のオフィシャルサイト:http://www.karanbajaj.com/

Almost Single

Advaita Kala『Almost Single』。インド版ブリジット・ジョーンズの日記、というひとことで紹介が終わってしまいそうなのですが。インドについては他の国との異質性ばかりがとやかく言われがちなのですけれど、アラサー独身女子の都会生活(舞台はニューデリー)という点ではあまり英国や日本と変わりないんじゃないかと思います。バリキャリ志向ではないしボスは大嫌いだけど、仕事(一流ホテルのレセプション係)自体は好きで周囲にもそれなりに評価されていて、友達(独身女子の味方として定番のゲイの友達も含む)と楽しく過ごしている主人公が、実家の母親からの「まだ結婚しないのか、近所の○○ちゃんは婚約したというのに」「いい人はいないの?」攻撃をかわしつつ、Mr.Right(運命の人)を探していろいろドジを踏んだり恥ずかしい思いをしながらもがんばるという話。サリーの下に着るペチコートを忘れた場合、ジーンズでも代用がきく(太って見えるけど)というのは初めて知りました。

著者のオフィシャルサイト:http://www.advaitakala.com/ak/

My Friend Sancho

インドの人気ブログ「India Uncut」の著者(元ジャーナリスト)であるAmit Varma(ムンバイ在住)が小説家に転じたということで話題の処女作『My Friend Sancho』を読みました。

インドでは近年、ライトかつお手ごろ価格の若者向け小説(これもライトノベルと言っていいのかな。「萌え」はないですが)がベストセラーになるということで(先日読んだChetan Bhagatの作品もこのカテゴリーに属します)こちらもベストセラー入りが期待されているようです。

主人公はムンバイのタブロイド紙(夕刊フジをイメージしてください)の事件記者。警察の誤認・誤射事件にうすうす感づいていても黙ってやりすごそうとしてしまうくらい警察とはずぶずぶの仲。

しかし、警察から父親をマフィアと間違えられて殺されてしまった娘が目の前に登場し、また、彼のボスも彼女の主張をタブロイド紙の紙面改革の一環としてとりあげることを決定してから、彼の人生は変わっていきます。

彼女と何回も会って父親の生涯について聞くうちに、最初はダサい貧乏人の娘と馬鹿にしていた彼女にだんだん気持ちが傾いていくものの、警察の主張(信憑性の高いタレ込みがあったことや状況証拠によりマフィアと判断。また担当の警察官が苦労人のいい奴だったりもします)と彼女の主張のはざまで苦悩するはめに。また、せっかく張り切って書いた記事も、紙面改革に対して広告主が難色を示したことで、オクラ入りの危機に陥ってしまうのでした。

期待大で読み始めたものの、読後感は今ひとつでした。途中から彼女の父親の話はどうでもよくなってしまい(最後まで真実は明らかになりません。聞き込みとか裏を取ったりなどの独自調査もしないの?当事者2-3人の言うことを聞くだけって本当にジャーナリストなの?)、単なる彼のひとり相撲的な恋愛小説となってしまうのと、彼女がまったく魅力的でない(=すぐ感情的になる考えなしな人にしか見えない)のが痛かったです。

ただ、AndheriのモールとかJuhu BeachとかThaneとかが出てきますのでムンバイ在住のみなさまには親しみやすいかも。

著者による自作紹介ページ:http://indiauncut.com/myfriendsancho

まだアマゾンには入荷されていないとのことです。

The Friday Night Knitting Club

インドは英語圏ということで書店には米国の本も英国の本も並びますが、入ってくるタイミングがよくつかめません。新刊ということで入ってきていたこの本は2007年の米国でのベストセラー。もしかしてもうすぐ映画化されるということで入荷されたのかも(ジュリア・ロバーツ主演。そういえばこの本の中にもジュリア・ロバーツに言及した台詞がちょっとだけ出てきていました)。

ニューヨークでシングルマザーとして毛糸店を経営するGeorgiaと彼女の12歳の娘Dakotaをとりまく人々の物語。実の母親以上にGeorgiaを支援する年上の友人Anita。パリから著名な建築家となって戻ってきたDakotaの父親であり、Geogiaの元彼であるJames。また、高校時代にGeorgiaを裏切って姿を消した親友が富豪の妻となって再び姿を現したり、嫌味な大学院生がフィールドワークと称して営業妨害的なインタビューをしに顔を出したりなどもします。

おもしろいことはおもしろいのですが、物語が実際に動きはじめるのに時間がかかりすぎるのと展開がちょっと都合が良すぎるのと(特に元親友および元彼との過去のいきさつのくだり。手紙がだめでも他の手段で連絡取れると思うんだけど…)登場人物がうすっぺらい(K.Cがどんな人なのか全然わかりません)のがひっかかって心の底からは楽しめませんでした。でもDakotaの焼くお菓子はとてもおいしそう。巻末にレシピが載っていたので作ってみようとか。

あと読んでいるとやはり編み物がしたくなります。作中に出てくるアフガン編みのブランケットがいいなあと思いました。雄鶏社が自己破産してしまう時代ということで、日本では編み物なんかもうはやらないのかもしれないのですが、自分は今後もずっとやりたいなあと。母親がレース編みをする人だった影響もあるかもしれませんが(雄鶏社の本は何冊か自宅にあってなじみ深かったので、自己破産のニュース、とても残念です)。ムンバイは暑すぎるので毛糸を持つ気持ちになれないのが難点なのですけれど。

日本語翻訳版も出版されています。